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組織づくり

案件で得た知見を「資産」に変え、次の案件の初速を上げる

AIの技術は数か月で入れ替わる。個人の努力だけで追いかけると、知識は人に属し、組織はその人が押さえている範囲でしか動けない。本格的な事業開始から約3年で正社員約60名の体制になるなかで、私たちが大事にしてきたのは、案件で得た知見を再利用できる「形」にし、次の案件に再投入する仕組みだ。

この記事の要点

  • 生成AIの案件は一つとして同じものがないように見えるが、評価・知識の切り分け・運用の型は再利用できる
  • 知見は「資料」ではなく、評価セット、Skill、ルールファイルのように動かせる形で残す
  • 自社で回している学習の循環を、そのまま顧客の組織にも残す

再利用できるのは、コードよりも「型」である

生成AIの案件は、業界も、データも、業務も違う。だが実際には、繰り返し現れるものが多い。帳票や図面の読み取り方。評価セットの作り方。精度が伸びないときの原因の切り分け方。現場に定着させるための運用の決め方。

非構造データが多い複雑な領域ほど、ユースケース、評価の指標、運用のプロセスは再利用できる。問題は、それが担当者の頭の中にしかないことだ。

案件の知見が形式知と社内基盤を経て次の案件に戻る4段階の循環。
案件で解く、形式知にする、社内基盤に組み込む、次の案件へ進む、という循環。同じ循環を顧客にも残し、内製化・自走を支援する。
  1. 案件で解く:顧客の現場で課題を解く。
  2. 形式知にする:勉強会・技術ブログで言語化する。
  3. 社内基盤に組み込む:AI基盤・Skill・評価の型として残す。
  4. 次の案件へ:共通の型を持ち込み、初速と精度を上げる。そこで得た知見を再び循環へ戻す。

この循環を顧客にも残すことが、内製化・自走の支援につながる。

案件で得た知見を言葉にし、社内基盤に組み込んで、次の案件に持ち込む。この一周が速いほど、組織全体の初速が上がる。

知見を「動かせる形」で残す

報告書や振り返り資料は、書いた瞬間から古くなる。読まれなければ、ないのと同じだ。私たちは知見を、次の案件でそのまま動かせる形で残すようにしている。

資産形次の案件での使われ方
評価の型正解と根拠付きの評価セットの作り方、正規化や照合のスクリプトPoCの初期から、方式を数字で比べられる
Skill業務知識を切り分けたマークダウンの文書似た業務に移植でき、顧客が自ら更新できる
ルールファイルAI駆動開発の規約や禁止事項開発の流儀をチーム全体にそろえる
方式選定の基準どの場面でどの方式を使うかの判断表提案と見積もりの精度を上げる
失敗の記録技術ブログ、社内勉強会の資料同じ落とし穴を避ける

これらは、可能な限りコードと同じように版を管理する。変更の履歴が残り、誰が何を改善したかをたどれるからだ。

循環を回すための4つの仕組み

1. 論文ベースの社内勉強会。技術の言説にそのまま乗らないために、一次情報に当たる。「RAGは死んだ、は本当か?」をテーマにした回では、最新の論文4本をもとに、どの場面でどの検索方式が効くかを検証した。エンジニアとコンサルタント約20名が参加し、終了後も自分の案件の構成に当てはめた議論が続いた。Physical AIのように、まだ案件になっていない領域も扱う。

2. 失敗も含めて外に書く。技術ブログでは、うまくいかなかった試みも公開している。外に書く前提に立つと、推測と事実を分け、条件を書き、再現できる形にまとめるようになる。それ自体が、知見を形式知にする訓練になる。

3. ナレッジが社内にたまるAI基盤。個人がそれぞれAIツールを使うだけでは、プロンプトも工夫も個人の手元に残る。そこで社内専用のAI基盤を自分たちで作った。社員がAIエージェントを作り、育て、チームで共有できる。普段のチャットツールから呼び出せる。機密情報を扱えるよう、自前でホスティングするLLMも用意した。使うほど会社に知見がたまる形を目指している。

4. 使い方を可視化し、共有する。社内のAI利用状況をレポートにまとめ、全社に共有した。目的は個人の評価ではなく、活用事例を広げ、必要な環境や支援を把握することだ。エンジニアが普段どうAIと開発しているかも、社内で公開している。要件が曖昧なときはAIに質問させて仕様を固める。AIの「完了しました」は信じず、テストやログで確かめさせる。そうした流儀が、個人からチームへ広がっていく。

「使われるシステム」は、業務の側から生まれる

社内で学んだことがもう一つある。今ではエンジニア以外の社員も、生成AIで日々の業務を効率化している。自社で開発した社内システムも増えた。そのなかで使われ続けているのは、ビジネス側のメンバーが事業のKPIや課題を考え、それを形にする形で作られたものだ。技術から発想したものは、残りにくい。

これは、私たちが顧客に繰り返し伝えていることと同じだ。自社で実践して確かめたことだから、自信を持って勧められる。

自社で回しているものを、顧客にも残す

私たちのVisionには「支援をし続けない。自社で回せる状態を残す」という一文がある。顧客に残すべきなのは、完成したシステムだけではない。評価の仕組み、改善のサイクル、知識を更新する運用、そしてそれを回せる人だ。つまり、私たちが自社で回している学習の循環そのものである。

目指すのは、AIを使う会社ではなく、AIで学び続ける会社だ。そして、その形を顧客の組織にも残していく。