職種の境界を引かない:コンサルとエンジニアを一つのチームにするため、評価制度から変えた
この記事の要点
- 提案から運用までを同じチームで担うには、組織図より先に評価制度を変える必要がある
- 等級ごとの役割と期待値を職種横断で定義し、稼働だけでなく提案・育成・採用への貢献も評価する
- 越境の壁は実在する。個人の努力に任せず、「型」の形式知化とAIで支える
なぜ境界を引かないのか
AIの案件では、「何を作るか」と「作れるか」を同時に決めなければならない。業務の課題が分かっても、技術的に実現できなければ提案は絵に描いた餅になる。逆に技術から発想すると、業務で使われないものができる。そこで私たちは、提案の段階から営業・コンサルタント・エンジニアが一緒に動き、提案したメンバーがそのまま実行も担う形をとっている。
| 段階 | 主に関わる役割 | エンジニアが早く入る理由 |
| 業務課題と全社戦略の理解 | 営業、コンサルタント | 実現性の判断と、技術の観点からの課題の掘り下げ |
| AI活用の構想策定 | コンサルタント、アーキテクト、AIエンジニア | 課題に合う方式の選定と、動くモックの先行開発 |
| 要件定義・データ整備 | アーキテクト、PM、AIエンジニア | 評価セットと合格基準をここで決める |
| 開発・実装 | PM、AI・アプリ・インフラのエンジニア | — |
| 運用・定着 | PM、インフラ、コンサルタント | 現場の使い方を見て改善を続ける |
約60名の社員のうち、コンサルタントとエンジニア(PMを含む)はほぼ同じ規模である。どちらかがどちらかの「下請け」になる構造は、作りたくなかった。
組織図より先に、評価制度を変える
体制を一つのチームにしても、評価が職種ごとに分かれていれば、人は自分の職種の仕事しかしない。エンジニアが提案を手伝っても評価されず、コンサルタントが技術を学んでも報われなければ、境界は自然に復活する。
そこで私たちは、2026年から次の考え方の評価制度を運用している。
1. 等級は職種横断で定義する。5段階の等級ごとに、役割と期待値を職種に関係なく一つに定義した。たとえば上位の等級では、職種を問わず「複数のプロジェクトの統括、提案と開拓、品質保証、育成」が期待される。テックリードとシニアマネージャーは同じ等級に並ぶ。
2. 評価の軸を「足切り」と「加点」に分ける。
| 軸 | 性質 | 中身 |
| 等級ごとの期待値 | 足切り(昇格の必須要件) | 役割の遂行、バリューの体現、信頼される行動 |
| 専門性 | 加点 | 事業成長と顧客価値への寄与 |
| 組織貢献 | 加点 | 提案、勉強会、育成、採用などへの寄与 |
専門性と組織貢献には重み付けをしていない。どちらで価値を出してもよい。
3. 稼働以外の貢献を評価に入れる。単価と稼働だけで報酬を決めると、受注前の提案活動や社内勉強会、後輩の育成は報われない。だが、記事6で書いたような知見の循環は、まさにこうした稼働以外の仕事で支えられている。
4. 制度は「永久のβ版」として運用する。組織も事業も変化が速い。運用しながら直し続ける前提で作った。3か月ごとに認識をすり合わせ、6か月ごとに総合的に判断する。半期ごとの個人目標は置いていない。目標の設定自体が、変化の速い仕事ではすぐに古くなるからだ。
越境の壁は実在する
制度を変えても、壁は残る。エンジニア出身のメンバーからは、提案資料の作り方や説明の作法が分からず苦労した、という声がある。コンサルタント出身のメンバーにとっては、技術の実現性を自分で判断することが壁になる。
私たちはこれを、個人の努力だけには任せないようにしている。
- 提案の型を形式知にし、AIに載せる。結論を言い切る見出しの書き方、論理の組み立て方、用途ごとのスライドの型を社内の規約としてまとめ、AIが参照できる形にした。エンジニアも、型に沿って提案の骨子を組める
- 技術の判断は、勉強会と現場で共有する。論文ベースの社内勉強会にはコンサルタントも参加する。方式選定の判断表も共通の資産として持つ
- 機会を先に渡し、上が支える。特定の個人に依存せず、マネジメント層が支えながら若いメンバーに提案やPMを任せる。意欲のあるメンバーほど速く伸びることが、第5期の大きな学びだった
顧客に勧めることを、自社で先にやる
記事1で、AI導入は最後に「誰が責任を持ち、何で評価されるか」という組織の問いに行き当たると書いた。それは私たち自身にも当てはまる。生成AIによって、コンサルタント、PM、エンジニアといった職種の境界はこれからさらに曖昧になる。そのとき、境界を前提にした制度は、人の動きを縛る。
顧客にAI前提の組織設計を勧める以上、まず自社で試し、うまくいかないところも含めて学び続ける。Cross the Lineという私たちのミッションは、まず自分たちの組織の中にある境界に向けた言葉でもある。